
「メタバース」という言葉を聞かなくなり、「結局、何だったのだろう」と感じている人もいるかもしれません。
数年前には、世界を変える新技術として盛んに取り上げられました。それなのに、自分の生活が大きく変わった実感はない。VRゴーグルを持っていなければ関係のない世界だと思っている人も多いでしょう。
けれど、メタバースそのものが消えたわけではありません。
ゲームの中で友人と集まること、離れた場所からイベントへ参加すること、アバターを通して誰かと話すこと。呼び方を強く意識しないまま、私たちはすでにメタバースに近い体験へ足を踏み入れています。
難しそうな言葉の奥にあるのは、「現実では行けない場所へ行き、会えない人と同じ時間を過ごす」という、とても人間らしい願いです。
メタバースとは、インターネット上に作られたもう一つの空間
メタバースとは、インターネット上に作られた仮想空間の中で、利用者が自分の分身となるアバターを動かし、ほかの人と交流したり、遊んだり、買い物をしたりできる仕組みです。
言葉の由来は、英語で「超越」を意味する「メタ」と、「世界」や「宇宙」を意味する「ユニバース」を組み合わせたものです。
ただし、インターネット上にある3D空間なら、すべてが明確にメタバースと決まっているわけではありません。一般的には、次のような特徴を持つサービスがメタバースと呼ばれています。
- 複数の人が同じ空間へ参加できる
- アバターを使って自由に動ける
- 会話や共同作業などの交流ができる
- 空間が継続して存在している
- アイテムの購入や販売などを行える場合がある
画面の向こうに用意された映像を見るだけではなく、自分自身がその世界の中へ入り、行動を選べることが大きな特徴です。
メタバースとVRは同じものではない
メタバースと聞くと、大きなゴーグルを装着している姿を思い浮かべるかもしれません。
しかし、メタバースとVRは同じものではありません。
メタバースは「場所」、VRは「体験するための技術」
メタバースは、インターネット上に作られた空間やサービスを指します。
一方のVRは、ゴーグルなどを使い、まるでその場にいるような立体映像や音を体験する技術です。
たとえるなら、メタバースは「遊園地」、VRゴーグルは「遊園地を臨場感たっぷりに楽しむための乗り物」に近い関係です。
VRゴーグルがなくても参加できる
メタバースを始めるために、必ずVRゴーグルを購入する必要はありません。
サービスによっては、次の端末から参加できます。
- スマートフォン
- タブレット
- パソコン
- VRゴーグル
最初はスマートフォンで空間を歩き、興味が深まってからVR機器を検討しても遅くありません。
「高価な機械がないから自分には無理」と、入口で諦めなくても大丈夫です。
メタバースでは何ができる?
メタバースは、一つの決まった用途だけに使われる場所ではありません。
現実世界と同じように、人が集まることでさまざまな楽しみ方が生まれます。
ゲームの世界で友人と遊ぶ
現在、最も身近なメタバース体験はゲームです。
同じ空間へ複数の利用者が集まり、協力して建物を作ったり、対戦したり、会話を楽しんだりします。
決められた物語を一人で進めるだけではありません。誰と過ごし、何をするかを自分たちで決められるゲームには、メタバースの要素が多く含まれています。
そこで知り合った相手と何度も会うようになれば、仮想空間も一つの居場所になっていきます。
ライブやイベントへ参加する
現実の会場へ行けなくても、アバターでライブや展示会へ参加できます。
遠方に住んでいる人、外出が難しい人、会場の混雑が苦手な人にとって、距離を越えて同じ時間を共有できることは大きな魅力です。
ステージを眺めるだけではなく、空間を歩いたり、ほかの参加者と反応を送り合ったりできるイベントもあります。
画面越しの配信より、「みんなと同じ場所にいる」と感じやすいことがメタバースならではの体験です。
観光地や建物を仮想空間で歩く
実在する街や施設を、デジタル空間の中に再現する取り組みもあります。
遠く離れた観光地を歩いたり、閉幕したイベント会場を見学したり、建設前の建物を確認したりすることができます。
現実の旅行そのものに置き換わるわけではありません。それでも、訪れる前に雰囲気を確かめたり、現地へ行けなかった人が景色に触れたりする新しい選択肢になります。
学校や研修の場として利用する
仮想空間に教室や研修会場を用意し、参加者がアバターで集まる使い方もあります。
資料を見るだけのオンライン授業とは異なり、空間を移動したり、展示物を立体的に見たり、ほかの参加者と一緒に作業したりできます。
顔を出すことに抵抗がある人でも、アバターを通すことで発言しやすくなる場合があります。
現実の教室が苦手な人にとって、学び方を一つ増やしてくれる可能性もあります。
買い物や作品の販売を楽しむ
メタバース内では、アバターの服、髪形、装飾品、空間に置く家具などが販売されています。
自分で作ったアイテムや3D作品を販売できるサービスもあり、創作活動の発表や収益化の場にもなっています。
ただし、メタバースを利用するために必ず暗号資産やNFTが必要なわけではありません。
無料で参加できる空間も多く、一般的な決済方法でアイテムを購入できるサービスもあります。メタバースとNFTは関係する場合がありますが、同じものではありません。
メタバースは終わったと言われるのはなぜ?
メタバースという言葉は、2021年から2022年ごろに急速に注目を集めました。
その後、生成AIなど別の技術が話題の中心になり、「メタバースは終わった」と言われることも増えています。
確かに、当時語られていたほど急速には普及していません。
期待が現実より大きくなりすぎた
メタバースが注目された当初は、「誰もが仮想空間で生活するようになる」「仕事も買い物もすべて変わる」といった壮大な未来像が語られました。
しかし、実際には端末の価格、操作の難しさ、通信環境、魅力的なコンテンツの不足など、乗り越えるべき課題が残っています。
期待が大きかったぶん、変化が緩やかに見えるようになったのです。
日常利用には手間がかかる
会話をするだけなら、メッセージアプリやビデオ通話のほうが早くて簡単です。
わざわざアプリを起動し、アバターを操作し、3D空間へ移動する必要性を感じない人もいます。
何でもメタバースに置き換えれば便利になるわけではありません。使う目的がはっきりしない空間は、利用者が定着しにくいのが現実です。
言葉よりも用途が残り始めている
ブームが落ち着いたからといって、技術までなくなったわけではありません。
オンラインゲーム、バーチャルライブ、デジタル展示会、遠隔研修、観光体験など、役に立つ分野では活用が続いています。
かつて「インターネットを使う」と強く意識していた行動が、今では当たり前になったように、将来はメタバースという名前を意識せず仮想空間を利用する場面が増えるかもしれません。
終わったのは技術ではなく、何でもすぐにメタバースへ変わるという過剰な期待だと考えたほうが自然です。
メタバースのメリットは、現実の制約を少し軽くできること
メタバースの価値は、現実世界を捨てて別の世界へ移ることではありません。
距離や外見、身体的な事情など、現実にある制約を少しだけ軽くできることにあります。
離れた場所にいる人と同じ体験ができる
住んでいる場所が違っても、同じ空間へ集まれます。
移動時間や交通費をかけずにイベントへ参加でき、海外の利用者とも交流できます。
単に映像を見るだけではなく、同じ空間を歩き、同じものを見ながら話せることで、距離を感じにくくなります。
現実とは違う自分を表現できる
アバターの見た目は、現実の年齢、性別、体格、服装に縛られません。
好きな姿を選び、自分らしさを表現できます。
現実では人目が気になって話せない人でも、アバターを通すことで少し大胆になれる場合があります。
それは自分を偽ることではなく、普段は表に出しにくい一面を見つけるきっかけになるかもしれません。
現実では難しい体験ができる
空を飛ぶ、海底を歩く、巨大な建物を一瞬で作る。
物理法則や場所の制約を受けないため、現実では難しい体験を形にできます。
教育、芸術、商品開発などでも、「頭の中にしかなかったものを目の前に置く」手段として活用できます。
楽しいだけではない、知っておきたい危険性
メタバースは新しい交流の場である一方、現実の社会と同じようにトラブルも起こります。
「仮想空間だから大丈夫」と油断せず、最低限の注意を持って利用することが大切です。
個人情報を簡単に伝えない
アバター同士で仲良くなっても、相手が話している年齢や職業が本当とは限りません。
本名、住所、学校名、勤務先、顔写真、連絡先などを安易に伝えないようにしましょう。
会話の内容だけで生活圏を推測されることもあります。
課金額を事前に決めておく
アバターの衣装やアイテムを見ていると、次々に欲しくなることがあります。
一つひとつの金額が小さくても、積み重なると大きな出費になります。毎月使える上限を先に決め、購入履歴を確認する習慣が必要です。
特に子どもが利用する場合は、保護者の許可なしで購入できない設定にしておくと安心です。
嫌がらせや不快な接触から離れる
仮想空間では、距離を詰められたり、暴言を吐かれたり、望まない行動をされることがあります。
不快だと感じたら、その場を離れて構いません。相手を非表示にするブロック機能や、運営へ知らせる通報機能も利用しましょう。
我慢して付き合う必要はありません。
長時間の利用で体調を崩さない
VRゴーグルを長時間使用すると、目の疲れ、頭痛、吐き気、肩や首の痛みを感じる場合があります。
スマートフォンやパソコンでも、夢中になると同じ姿勢が続きます。
定期的に休憩し、違和感があればすぐに利用をやめましょう。歩きながらVR機器を使うと、家具や壁にぶつかる危険もあります。周囲に十分なスペースを確保することが必要です。
初めてのメタバースは、スマートフォンからで十分
メタバースに興味があっても、何から始めればよいのかわからないかもしれません。
最初から機材をそろえたり、お金を使ったりする必要はありません。
1.利用する目的を一つだけ決める
まずは、やってみたいことを一つ選びます。
- 仮想空間を歩いてみたい
- ライブやイベントに参加したい
- 友人とゲームをしたい
- アバターを作りたい
- 作品を展示したい
目的が決まると、選ぶサービスもわかりやすくなります。
2.スマートフォン対応のサービスを選ぶ
初心者は、スマートフォンやパソコンから無料で参加できるサービスが始めやすいでしょう。
国内では、スマートフォン、パソコン、VR機器から利用できるメタバースプラットフォームも提供されています。
メタバースプラットフォーム cluster公式サイト
アカウントを作る前に、対象年齢、料金、対応端末、利用規約を確認してください。
3.最初は見るだけでもいい
知らない人へ話しかける必要はありません。
公開されている空間を歩き、どのような人が集まっているのかを見るだけでも立派な体験です。
操作に慣れてから、イベントへの参加や会話を試せば十分です。急いで輪の中へ入らなくても、自分のペースで居場所を探せます。
4.高価な機器は続けたくなってから考える
VRゴーグルを使うと、空間の奥行きや臨場感は高まります。
ただし、価格だけでなく、重さ、装着感、対応サービス、必要な保管場所も確認しなければなりません。
スマートフォンやパソコンで何度か利用し、「もっと深く体験したい」と感じてから購入を考えるほうが失敗を防げます。
メタバースは、現実から逃げる場所ではなく現実を広げる場所
メタバースが、明日から私たちの生活をすべて変えるわけではありません。
現実の買い物、旅行、学校、職場、人との触れ合いが、すぐに仮想空間へ置き換わることもないでしょう。
それでも、遠くて行けなかった場所を訪ねられる。会えなかった人と同じ景色を眺められる。現実とは少し違う姿で、言えなかった言葉を伝えられる。
その小さな変化だけでも、誰かの世界を広げるには十分です。
大きなブームの言葉に振り回される必要はありません。
まずはスマートフォンの画面から、もう一つの空間を少し歩いてみる。自分に合わなければ離れればよく、心が動く場所を見つけたなら、もう少し先へ進んでみる。
メタバースは、現実を捨てるための別世界ではありません。
今いる場所から届かなかったものへ、手を伸ばすための新しい入口です。
出典
- 総務省
- 中小企業庁
- 近畿経済産業局
- cluster
- 北海道科学大学









