高校野球が嫌いなのは変じゃない。甲子園の「感動」に疲れてしまう理由
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夏が近づくと、テレビやニュース、SNSには高校野球の話題が増えていきます。

地元の代表校を応援し、選手の全力プレーに胸を熱くする人がいる一方で、どこか居心地の悪さを覚える人もいます。

「感動しなければいけないような空気が苦手」

「野球は好きなのに、高校野球だけは見たいと思わない」

「ほかの部活動と比べて、特別扱いされすぎている気がする」

そう感じることは、決しておかしなことではありません。

高校野球が苦手な人の多くは、選手たちの努力そのものを否定しているわけではありません。違和感を覚えているのは、高校野球を取り巻く報道や演出、昔から続く価値観の方です。

なぜ甲子園の熱狂についていけない人がいるのか。その理由を、好きな人の気持ちも否定せずに考えていきます。



高校野球が嫌いだと感じる人は珍しくない

高校野球に対して否定的なことを口にすると、「一生懸命な高校生を批判するのか」と受け取られることがあります。

しかし、選手の努力を尊重することと、高校野球を好きになることは別です。

音楽や映画と同じように、スポーツにも好みがあります。プロ野球は見るけれど高校野球は見ない人もいれば、野球そのものに興味がない人もいます。

高校生が真剣に取り組んでいるからといって、全国の視聴者が同じ温度で応援しなければならないわけではありません。

むしろ「嫌い」と感じる背景には、試合内容よりも、高校野球だけに生まれる独特の空気があります。

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感動することを前提にした報道に疲れてしまう

高校野球の報道では、試合の勝敗だけでなく、選手の家族、仲間との約束、けがからの復帰、監督との絆などが大きく取り上げられます。

そうした背景を知ることで、試合がより心に残ることは確かです。実際に、本人や家族にとっては、かけがえのない物語でしょう。

ただし、すべての視聴者が、その物語に同じように感動できるわけではありません。

泣いている選手を長く映したり、「最後の夏」「仲間との絆」といった言葉を何度も重ねたりすると、自然に生まれるはずの感情を誘導されているように感じることがあります。

感動は、本来なら見る人の中から生まれるものです。

「ここは泣く場面です」と言われているような演出が続けば、高校野球が好きだった人でさえ、少し距離を置きたくなることがあります。

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高校野球だけが特別扱いされているように見える

高校生が全力で取り組んでいるスポーツは、野球だけではありません。

サッカー、バスケットボール、バレーボール、陸上、水泳、柔道、ラグビーなど、それぞれの競技に全国大会があり、選手たちは同じように長い時間を練習に費やしています。

吹奏楽、演劇、ダンス、書道といった文化系の部活動にも、全国を目指して努力している高校生がいます。

それでも、春と夏の高校野球は長期間にわたって大きく報道されます。

この露出の差を見て、「なぜ野球だけが青春の代表として扱われるのか」と疑問を持つ人がいるのは自然なことです。

高校野球の歴史や人気を考えれば、報道量が多くなる理由は理解できます。しかし、ほかの競技や部活動にも、同じように伝える価値のある物語があります。

高校野球そのものが嫌いというより、野球だけに注目が集まる状況に納得できない人も少なくありません。

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「高校球児らしさ」を求めすぎている

高校野球では、選手に対してプレー以外の振る舞いも求められがちです。

礼儀正しさ、爽やかさ、忍耐、仲間への思いやり、監督への感謝。そうした姿勢は大切ですが、高校生は完成された人格者ではありません。

喜び方が派手な選手もいれば、感情を表に出さない選手もいます。髪型や話し方にも個性があります。

ところが、高校野球では「高校球児らしいか」という基準で、必要以上に評価されたり批判されたりすることがあります。

高校生の大会であるはずなのに、大人が作り上げた理想像を演じることまで求められてしまう。そこに窮屈さを感じる人もいます。

選手を美化しすぎることは、選手本人にとっても負担になる可能性があります。

失敗することも、弱音を吐くことも、勝って大きく喜ぶことも、本来は高校生らしい自然な姿です。

炎天下で行われる大会に不安を感じる

夏の甲子園に対する大きな疑問の一つが、暑さの中で試合を行うことです。

近年は、試合時間の変更、休養日の設定、クーリングタイム、冷房のあるスペースでの休憩、水分や冷却用品の準備など、さまざまな対策が進められています。

投手の投球数にも制限が設けられ、以前と比べれば選手の負担を減らそうとする動きは明確になっています。

それでも、真夏の屋外で長時間プレーする以上、暑さへの不安がなくなるわけではありません。

「伝統だから続ける」ではなく、気候や選手の体調に合わせて大会の形を変えていくべきではないか。そう考える人が高校野球に批判的になるのは、選手を心配しているからでもあります。

暑さ対策が強化されていること自体、これまでの運営方法を見直す必要があると認識されている表れでしょう。

投手一人に背負わせる物語が苦手

高校野球では、エース投手が何試合も投げ続ける姿が「覚悟」「根性」「最後まで仲間のために投げ抜いた」と語られることがあります。

その姿に心を動かされる人がいる一方で、将来のある高校生に負担を集中させてよいのかと心配する人もいます。

現在は投球数制限が設けられ、複数の投手を育てる学校も増えています。しかし、絶対的なエースを中心にした物語は、今も高校野球の大きな見せ場として扱われます。

痛みを我慢することや、限界まで投げることだけを美談にしてしまえば、選手が自分から休みたいと言い出しにくくなる可能性があります。

本当に選手を応援するのであれば、投げ続ける勇気だけでなく、交代を受け入れる判断や、選手を休ませる指導者の決断も評価されるべきです。

学校や家族の応援負担が見えにくい

甲子園に出場すれば、選手だけでなく、学校、保護者、吹奏楽部、応援団、卒業生など、多くの人が動きます。

主催者から出場選手や監督などへの旅費・宿泊費の支援はありますが、応援に向かうすべての人の費用が賄われるわけではありません。

遠方の学校ほど、交通費や宿泊費の負担は大きくなります。勝ち進めば滞在期間も延び、寄付や追加の支援が必要になる場合もあります。

もちろん、学校全体で応援する時間を大切な思い出と感じる人もいます。

一方で、野球部以外の生徒や家庭にまで、時間や費用の負担が広がることに疑問を持つ人もいます。

「学校の代表なのだから全員で応援して当然」という空気が強くなれば、参加したくない人が意思を示しにくくなります。

それでも高校野球が愛される理由

高校野球が多くの人に支持されているのにも、はっきりとした理由があります。

地元や母校を応援できること。一度負ければ終わる緊張感。まだ完成されていない選手たちが、試合の中で成長していく姿。予想できない展開や、最後の一球まで続く逆転の可能性。

学校ごとに異なる応援や吹奏楽も、大会の大きな魅力です。

プロ野球のように長いシーズンがあるわけではなく、多くの3年生にとっては一度しかない夏です。その限られた時間が、試合に特別な重みを与えています。

毎年甲子園を楽しみにしている人にとっては、単なるスポーツ大会ではなく、夏の記憶と結びついた大切な行事なのでしょう。

好きな人が心を動かされることも、苦手な人が距離を置きたくなることも、どちらも自然な感情です。

高校野球が嫌いでも選手まで否定する必要はない

高校野球に違和感を持つとき、分けて考えたいのが「選手」と「選手を取り巻く文化」です。

選手たちは、それぞれの目標に向かって練習し、試合に挑んでいます。その努力を否定する必要はありません。

一方で、テレビの演出、大会運営、報道量、学校内の同調圧力などに疑問を持つことはできます。

選手を応援しながら、暑さや投手の負担について意見を述べることも可能です。

高校野球が好きか嫌いかという二択ではなく、試合は好きだが過剰な美談は苦手、地元校は応援するが長時間の放送は見ない、といった距離感があってもよいはずです。

高校野球が嫌いなのは性格が悪いから?

高校野球に感動できないからといって、性格が悪いわけではありません。

スポーツに対する興味や、心を動かされるポイントは人によって異なります。

一生懸命な人を見たら必ず応援しなければならない、涙を見たら感動しなければならないという決まりはありません。

苦手だと感じる自分を責めるより、「試合が嫌いなのか」「報道の仕方が苦手なのか」「周囲と同じ反応を求められることが嫌なのか」を分けて考えると、自分の違和感が見えやすくなります。

野球は好きでも高校野球だけ苦手なのは変?

まったく変ではありません。

プロ野球と高校野球では、試合の技術だけでなく、報道のされ方や大会の雰囲気が大きく異なります。

純粋に高いレベルのプレーを見たい人にとっては、家族や友情の物語が強調される高校野球より、プロ野球の方が見やすい場合があります。

反対に、技術の完成度よりも一試合に懸ける緊張感を楽しみたい人は、高校野球に魅力を感じるでしょう。

同じ野球でも、別の楽しみ方を持つ競技として考えれば、不思議なことではありません。

甲子園に心が動かない夏があってもいい

高校野球は、日本の夏を代表する文化の一つです。

だからこそ、好きな人の声が大きくなり、苦手な人は自分の感覚を言い出しにくくなります。

しかし、全員が同じ試合を見て、同じ場面で涙を流す必要はありません。

選手たちの努力を尊重しながら、過剰な美化や報道の偏り、選手への負担に疑問を持つことはできます。

高校野球が好きな人も、苦手な人も、それぞれの距離で夏を過ごしてよいのです。

感動は押し付けられて生まれるものではありません。

自分の心が動いたときに、自然に受け取ればよいのだと思います。

出典

公益財団法人 日本高等学校野球連盟「全国高等学校野球選手権大会」

公益財団法人 日本高等学校野球連盟「全国高校野球選手権大会の暑さ・健康対策」

公益財団法人 日本高等学校野球連盟「高校野球特別規則」

公益財団法人 日本高等学校野球連盟「選抜高等学校野球大会 大会要項」

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